子供に返った母
特養に入った母に会いに行った。
膝が悪くて歩くのが少し不自由なぐらいで、体は元気。
でも、娘の私は認識できたが、一緒に行った息子を最後まで孫として思い出すことはなかった。
初めは私の夫として職員に紹介し、ちょっと私が席を外してからは、最後までCO-OPの配達のお兄ちゃんになってしまった。
ベッドに風呂敷包みならぬ、取り外したクッションカバーの中に衣服を入れた荷物が2つ置いてあった。
誰かが母に会いに来るたびに、「せっかく来てくれたのだからこんな所でなく、家でじっくり話をしよう。だから家に連れて帰ってちょうだい。」と言って、困らせているのだという。
ここが母の居場所、ここにいた方がいいのだと言っても、話は堂々巡りで、最後は荷物を持って立ち上がってしまう。
「連れて帰ってあげたいのはやまやま。でもできないの。」と心の中で泣いた。
息子はいたたまれず、「いっそうちに連れて来ようよ」と。
私たち娘が一緒に住もうと言ったけれど、最後までうんと言わなかったのは母。
長男と一緒でなくてはダメだと。
…………
世の中は得てしてこんなもの、両方の思惑が一致することはそうそうない。
「お母さんもこうなるのかな」と息子が言う。
「来てくれと言われたら、どこへでも行くよ。」と私。
でもそういうのに限って、誰からも来てくれと言われなかったり…。
子供をあやすように、呼び出してくれた職員と一緒に歩き去る母の後ろ姿を見ながら、私たちは隠れるようにしてホームを離れた。
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